- 松並 研作
【東大関連ベンチャーはコロナをどう乗り越える!?①】新素材の開発から販売までを継続するために~株式会社ASM
「東大関連ベンチャーはコロナをどう乗り越える!?」の第1回目の企画として、2021年2月4日に株式会社ASMの代表取締役・壷内幹彦氏にお話を伺った。

株式会社ASMの基本概要

2016年ノーベル化学賞を受賞した分子機械のもととなったロタキサンを量産する
世界で唯一の企業
設立:2005年3月
従業員数:11名(2020年3月末現在)
企業ホームページ:https://www.asmi.jp/
革新的な素材「SeRM」を世界で唯一量産できる企業

株式会社ASMでは、環状のシクロデキストリンを直鎖状のポリエチレングリコールが貫通する、いわゆるネックレス構造を持つ「SeRM」の開発・製造・及び販売を行っている。このSeRMは、改質したい材料に反応させて、系中に取り込ませることで、衝撃吸収性や耐傷性、耐摩耗性を向上させる「応力緩和」と、復元力を担う「形状記憶」の二つの機能を発現させる。SeRMの使用例としては、研磨剤やゴルフボールなどのトップコートなどがある。既存の材料では両立が困難であった機能性を同時に発現させられることから、今後さらなるものに使用されていくことが期待されている。
開発や製造は現場にいないといけない
株式会社ASMは、東京大学のキャンパス内にあることから、一般的な企業とは異なり、大学のルールにも従う必要があった。大学は入構制限など独自のルールが定めており、感染状況が拡大した場合、社員が出社することを禁じられてしまう可能性も危惧していたという。しかし、開発や製造は現場にいないと、実際は何も活動できない。そのため、活動を続けながらもいかに人を減らして勤務するかというところに尽力したそうだ。また、壷内氏は社内での従業員の配置にも工夫したことに言及された。もし、社内に感染者が出た場合、従業員数の少ない企業では多くのプロジェクトが止まってしまう危険性がとても高い。そこで、同じテーマの人たちでも、違う部屋で作業させるなどして、万が一感染者が出ても仕事への影響を最小限にする工夫をしていた。幸い、従業員の多くは社の近くに住んでいることもあり、出勤時に関する懸念点は少なかったようだ。

細かなニュアンスが伝えにくいウェブ会議
開発や製造が出社しないといけない一方で、営業などはリモートワークを積極的に利用していた。株式会社ASMは、もともとSlackやZoomなどのツールを社内で使っていたこともあり、リモートワークをするにあたってソフトの面では困ることはなかった。むしろ、移動無しで繋がることのできるウェブ会議の利を生かして、今まではなかなか会えなかったような人たちとも会議を積極的にするようになったという利点もあったという。特に、海外の顧客に対しては、これまではメールベースでのやり取りが中心であったが、ウェブ会議を導入することで、より製品の細かなところまで伝えることができたそうだ。
一方で、オンラインで会議することの難しさもあることを壷内氏は指摘した。一番の課題は、細かなニュアンスを伝えにくいことであった。特に顧客とのウェブ会議だと、先方の細かな要求を聞き出すのが難しく、かつこちら側の実情を詳しく伝えてもなかなか理解してもらえないことが多かったそうだ。細かい部分は、開発においてとても重要な要素であるため、会議の結果を開発に生かすことは困難を極めた。ウェブ会議は、今後も積極的に利用すべき有用なツールではあるが、直接会って会議することが可能であればそうしたいというのも実情であろう。
制度は良いが、企業によって向き不向きのある融資
株式会社ASMは、コロナによって業績にマイナスの影響もあったが、コロナが始まる前に様々なプロジェクトを軌道に乗せられたこともあって、単純な売り上げ自体は前年度よりも上昇したそうだ。一か月だけ売り上げが落ちたときがあったため、その時に短期的な融資をうけることはできたそうだが、基本的にはコロナに関する融資の対象にはなっていなかった。壷内氏は、融資などの国の制度自体は良かったが、会社の状況が制度には合わなかったと述べた。融資の対象は絞る必要があるのは事実であるが、前年度比などのような基準を設けることで、経営に苦しんでいても対象に入らないような企業が存在してしまうのも現実的にあり得ることのようだ。
プロジェクトを止めることなく進めていくために
インタビューの最後には、ポストコロナ社会に向けた展望も伺った。パンデミックなどにより外出に制限が出るようなことがあった場合、プロジェクトが止まってしまうことが大きなリスクとなってしまう。事務などの業務は家庭でもできるため、リモートワークを積極的に使えるようにする必要がある。一方で、開発や製造は現場でしか行えないため、いかに働く場所を確保しておくかということが企業には強く求められることになるとの見解であった。今後は、社内だけでなく関連する外部とも協力して、いかにリスクを分散できるか対策を練っていく必要があるようだ。
編集後記
今回は、少人数で革新的な新素材の開発から販売までを担っている会社の様子を伺うことができました。ご多忙の中、私たちからのインタビューを快く引き受けてくださり、かつ貴重なご意見をくださった、株式会社ASMの壷内氏、及び関係者の皆様に改めてお礼申し上げます。
なお、私たちは東大関連ベンチャーを中心に、これからもインタビューを続けて現場の声を記事にしていきたいと思います。ご興味のある方、少しでもご協力いただける方は是非我々のチームにご連絡いただけると幸いです。詳しくはこちら。
※東大関連ベンチャーとは、東大の在校生または卒業生などの関係者が創業したベンチャーのことを意味しています。東京大学が公式で認めている企業という意味ではありませんので、ご了承ください。